「人生の1/3は睡眠である」といいます。これは1日およそ8時間の睡眠が24時間のうちの1/3にあたり、人生という単位で換算するとこうなるという解釈です。また「歳をとると朝が早い」「子どもはよく寝る」「寝る子は育つ」などもまたよく耳にすることでが、年齢によって睡眠時間が変わることもあるのでしょうか?ナポレオンは1日に3~4時間しか寝なかった、と言うのは本当なのでしょうか?
睡眠の"本当"をどれだけ知っているか?と言えば、「浅い睡眠と深い睡眠が交互に訪れる」ことくらいが頭に思い浮かぶ程度で、それ以外は疑問符がついてしまいます。睡眠をとことん知ることができれば、起きている(覚醒している)ときの質が変わるかも知れません。
そこで、「睡眠とは何なのか?」を考えてみましょう。
1 寝る子は育つ ~ 睡眠は生体のリズムである。
ヒトは覚醒(起きている状態)と睡眠(寝ている状態)を繰り返します。覚醒と睡眠は1日のリズムとなっており、そのリズムは24~25時間周期となっています。これは基本的な生体のリズムであり、サーカディアンリズム(circadian rhythm)といいます。
後で詳しく述べますが、浅い眠り(ノンレム睡眠)はとくに高体温を維持するほ乳類や鳥類などにとって重要な働きをします。ノンレム睡眠は、エネルギー代謝を周期的に節約するとされています。このメカニズムこそが生命を保つことにもつながっており、睡眠中のエネルギー代謝率が少ない動物ほど長寿であることが知られています。
深い眠り(レム睡眠)は身体をデザインしていくうえで大事な働きをしています。その証拠にヒトの場合、新生児のレム睡眠は睡眠全体の50%にもなります。これが成人になると20%ほどになってしまいます。レム睡眠では、中枢神経系の活動が活発になります。新生児は外的な環境の刺激よりも内部(中枢神経系)の刺激によってからだを成長させることになります。ヒトは元来太陽とともに目覚め、暗くなると寝る生活をしていました。ヒトはこのリズムを本能的に自覚しているようです。習慣にもよりますが、日が変わらないうち(午前0時前)に入眠した方が睡眠の完成度は高いようです。眠る時間が遅いほどノンレム睡眠が少なくなり、レム睡眠が長くなることが十分に予想できます。そうなると、すでに述べたようにエネルギー消費が高くなると思われます。早くから寝ることが大事で、早く寝る子ほど「寝る子は育つ」のです。
2 睡眠を測る(レム睡眠とノンレム睡眠)
睡眠していることを客観的に知るにはどうしたらよいのでしょうか?大脳(皮質)には通常微量な電流(10ヘルツ前後)が流れています。これを大脳皮質から直接取り出したものが脳波(EEG)です。覚醒している状態で目をつぶるとα波(8~13ヘルツ)が現れ、目を開け思考するとα波は活動を弱め速波に変わります(αブロッキング現象)。また脳波はα波を中心にβ波(14~25ヘルツ)、θ波(4~7ヘルツ)、δ波(0.5~3.5ヘルツ)に分けられています。
脳波は意識レベルの違いで変化をもたらします。睡眠と合わせて考えた場合、AseriskyとKleitmanの5段階の分類でよく説明されています。
※第1段階
傾眠状態。眠気がさしており、本人は起きているつもりでも反応が鈍い。短い夢を見る。1~7分程度継続し、睡眠全体のおよそ5%を占める。α波が低下し代わりに低振幅θ波が多く出現する。一部δ波を含む。
※第2段階
浅い睡眠の状態。意識は無くなる。低振幅波が連続するが、ときどき12~14ヘルツの睡眠紡錘波が出現する。音などの刺激で、頭頂部で記録できる陰性波とその後続く陽性波の出現をみるK-複合がでる。
※第3段階
完全に意識が消失する深い眠りの状態。睡眠全体のおよそ10%を占める。高振幅なδ波が20~30%出現している状態。
※第4段階
もっとも深い眠りの状態。睡眠に突入後早い時期にこの段階に達する。睡眠全体のおよそ10%を占める。δ波が50%以上出現している状態。
※第5段階
第3段階程度の深さの眠りで、もっとも覚醒しにくい眠り。第1段階と似た脳波をみる。この段階では急速眼球運動(rapid eye muvement ; REM)や顔面、四肢の痙攣が起こる。また鮮明な夢体験が特徴で、朝に近くなるにしたがい出現時間が長くなる。睡眠全体のおよそ25%。
個人差があるものの、睡眠に入り第1段階から第5段階まで達するのに1.5~2時間程度かかります。一晩でこれを4~5回繰り返します。
第5段階は脳波は第3段階の波形を示します。この波形は覚醒閾値です。つまり脳波は覚醒パターンにありながら身体は睡眠パターンにあることからこの段階を逆説睡眠(paradoxical sleep)といいます。また第5段階は急速眼球運動が起こることからレム睡眠(REM)、第1~4段階をノンレム睡眠(non-REM)といいます。
3 眠りへの誘い
ヒトのからだの反応は、とても多くの要因がからみあった結果です。睡眠導入へのメカニズムも同様です。ヒトは冬眠するようなほ乳類のような「寝だめ」ができません。しかし、睡眠不足が続いてもある程度生活(覚醒)を継続していけます。その寝不足分は不足時間分を寝ることで解消するのではなく、ある程度の睡眠時間によって解消されてしまいます。一方、睡眠時間が十分であっても環境によって「睡魔に襲われて」しまいます。
ヒトは、なぜ眠くなるのでしょうか?そのメカニズムを考えてみましょう。
疲労して眠くなることは誰もが経験していることでしょう。以前より覚醒時に蓄積する何らかによって睡眠が施されることが推測されていました。おそらく脳内に分泌するホルモンの影響と考えられていました。大脳辺縁系に存在する神経細胞にはセロトニン、ソマトスタチン、メラトニンなどの物質があり、その活動によって覚醒や睡眠のリズムが変化することは知られています。こうした脳内ホルモンによる影響はすべてが明らかではなく、さらなる研究が必要です。
一方、神経系からのアプローチからの睡眠の研究は、よく眠る動物であるネコで実験されています。1944年には視床下部を中心とした部位に睡眠誘導系が存在することが報告されました。しかしネコはおよそ2/3を寝て暮らしているため、実験が偶然の結果になったのでは、という疑問が生じました。そこでその後の研究では、脳を段階的に観察することが試みられました。延髄と脊髄とを切断する下位離断脳では、覚醒と睡眠のリズムに変化が無く脳波も正常でした。しかし中脳と間脳とを切断する上位離断脳では、深い睡眠に入り刺激しても覚醒しませんでした。このことから睡眠に関する系は中脳にあることが示唆されました。さらに電気的な刺激による実験で、中脳網様体がその主役であることがつきとめられました。中脳網様体の興奮(感覚救心入力や大脳皮質からの遠心性の刺激;上行性網様賦活系)により覚醒が起こり、抑制(延髄や視床下部からの入力;延髄抑制系)により睡眠の導入が始まった。こうして脳の神経的なメカニズムは解明されていった。
4 睡眠時のからだの反応
※血圧
入眠とともに低下する。REM睡眠時には一時的に上昇。目覚めが近くなるにつれ上昇し始め、目覚めた時には昼間の状態に一気に戻る。
※心拍数、呼吸、体温
睡眠の深さに平行して低下する。REM睡眠時には心拍数が一時的に上昇する。
※ホルモン
成長ホルモン、プラクチン、副腎皮質ホルモン、性腺刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモンなどが睡眠と同時に分泌が高まる。
5 やはり寝る子は育つ。 トレーニングが眠りに及ぼす影響は?
トレーニングによる疲労を回復させるにはどうしたらよいのでしょうか?トレーニングは、筋を破壊し心肺を疲労させるような身体への刺激です。壊れた筋を修復し、より強靱にしたり、心肺の機能をより向上させる手段は何でしょうか?
一つは栄養です。二つ目は睡眠です。これは上述した「4 睡眠時のからだの反応;ホルモン」をみるとわかります。筋を修復したり疲労した機能を回復させるのは成長ホルモンです。また、ほかのホルモンも身体の恒常性を保ったりする役目をするため、低下した機能を修復します。こうしたことから、睡眠によって成長し、疲れたからだを回復させ、そして向上させるのだといえます。
トレーニングがあまりに高強度だったりすると眠れないことがあります。これは、中脳網様体(上行性網様賦活系)が強く興奮しているためと思われます。また大事なレース前だと眠れなかったりすることもありますが、これも同様ででしょう。こうした時は無理に眠ろうとはせずに、暗いところ(視神経からの刺激をなくす)で横になるだけでかまいません。日常的に睡眠のリズムが守られている場合、一過性の原因(トレーニングやレース前など)で眠りが妨げられていても、ホルモンの分泌などはある程度促進されます。
6 睡眠は必要か? 睡眠の役割
"ヒト"は勿論、高等生物は皆、多かれ少なかれ睡眠をとります。睡眠時間の長短はありますが、それぞれの生活のリズムの中で必ず寝ているわけです。中にはエサの少ない冬季に活動を休止する「冬眠」をする場合もあります。それでは高等生物、ヒトは何故寝るのでしょうか。
睡眠を大別すると、レム睡眠とノンレム睡眠とがあります。(基礎編参照)レム睡眠はストレスの解消に役立ち、ノンレム睡眠は心身の疲労回復に役立つとされています。レム・ノンレム睡眠は睡眠中、交互に訪れ、ストレスや疲労を取り除きながら心身を修復していると言うことができるでしょう。
7 なぜ睡眠を取るのか?
「なぜ寝るのか」ということは、実はまだよく解っていません。多くの研究から次ぎのような説が考えられていますが、いづれも解明には至っておらず、これらが絡み合って睡眠という行為が存在するとも考えられます。
※回復説
心身の疲労及びストレスの回復や修復を行う。
※保護説
覚醒期(起きている時間)における疲労から心身を守る。
※エネルギー保存説
エネルギーの消費を押さえ、覚醒期に必要なエネルギーを保存する。
※行動説
地球の、"1日24時間・昼‐夜" というリズム=身体からみた外部環境に積極的に適応しようとする行動である。
※本能説
生物にもともと組まれているプログラムである。
8 運動と睡眠の関係
運動と睡眠の関係も実はまだよく解っていません。しかし、適度な運動をすると寝付きや目覚めが良くなるということは多くの人が経験されているのではないでしょうか。
運動選手は、そうでない人に較べ、睡眠中にレム睡眠の割合が多いことが解っています。また、その運動選手も、トレーニングを行わない日などは、このレム睡眠の割合が減ることから、運動はレム睡眠を増加させると言うことができます。このことは運動時間や強度によっても影響されるようですが詳しいことはわかっていません。ただし、午後に行う運動は睡眠に効果的ですが、夜間の高強度の運動は却って睡眠を妨げてしまいます。
睡眠中には成長ホルモンの分泌が促進され、これが疲労回復に役立つと考えられています。日常生活の中で規則ただしい睡眠を取ることや合宿などで休憩時間に1~2時間程度の仮眠を取ることはトレーニンング効果を促すことになるでしょう。
以上のことから短縮睡眠には質の高い睡眠が必要だと言うことがわかる
深い質の高い睡眠を取る為にはどうしたらいいか。
1) よく運動し、頭を使い、深い睡眠を取るようにする
2) そのため、枕など寝具に気を遣う
3) 寝る前にストレッチを軽く行う
4) 就寝する数時間前から食事は一切しない
5) 寝る前に、瞑想をする
などがあげられる。30分程度の昼寝が効果的です。
後は肉や魚を食べない。
ベジタリアンになると、睡眠時間が短縮できるらしいです。
知人は3時間ほどになったそうです。
無理なく皆さん試して下さい。
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